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中学校理科のための人類学知識



中学校理科教育のための人類学知識の参考資料

<現行教科書について考えられる改善点>

 総論的導入

ミクロ(細胞レベル)からマクロへ、古い方(原始的)から新しい方へと論じるより、身近なヒト(自分自身)を題材にした総論的内容を冒頭に持ってきた方が、各項目への興味が沸き、各細目を学習する意義を理解し易くなると考えられる。例えば生殖と成長の話をするのに、いきなりカエルやウニの話から入るよりは、ヒトの身体が***もの細胞から成り、それは元来1つの丸い生殖細胞であった事実から入った方が、実感が沸くだろう(そもそもなぜウニの細胞を例に出すのか生徒には理解できない)。実際に、ヒトを題材にすると生徒の関心を引きやすいという現場の先生からの声がある。さらに人間と自然界との関わりを体感できるようにするには、ヒト(自分自身)を随所に登場させる必要がある。

 項目間の融合・繰り返しの導入

扱われている各項目は有機的に関連しているものだが、細分化されすぎていて本来の関連が見えにくい。また記憶は繰り返しによって安定化するものだが、教科書ではこれをあまり許していない。ある項目を扱っている際に関連する他の話題にも積極的に触れるようにすべきであろう。例えば神経系の話をするのに、神経系のない動物を引き合いに出し、神経系の進化によって何が可能になったのかを考察すれば、神経機能について理解は深まるだろう。後に進化の話題に改めて触れるときにも、そうした雑知識があった方が入りやすい。

 研究史の紹介

最初から“正解”を教えるだけでは、問題の本質を十分に理解できないし、現場の研究者が感じている発見することの興奮は味わえない。現在の科学的認識がどのように形成されてきたかについても、なるべく触れた方がよいと思われる。例えば細胞を染色する手法をただ教えれば、生徒はただやるだけだろうが、最初に透明な細胞を観察させ、細胞現象理解のために何をすべきか考えさせた後で染色技術の開発について教えれば、この技術の重要性が理解るだろう(2008年のノーベル賞とも関連)。

 問いかけ

各項目に入る前段階として、以下のようなクイズを実施するとよいかもしれない。クイズには自分で考え問題点に気づかせる効果がある。以下は上記3点を考慮した、特に導入部を想定して考案したもので、「平易だが根本的な問いかけ」を心掛けている。




問いかけの具体的展開

 第2学年

 ア 生物と細胞

Q ヒトの身体をつくる細胞にはどのような種類があるか? 

1)組織や部位による細胞の形態的・機能的多様性に気づかせる
2)1つの生殖細胞が分裂・分化を繰り返して自身の身体がかたちづくられることを理解する。(遺伝子によってどの細胞がいつどのように分裂あるいは分化し、どこへ移動するか定められている。)→ 生殖・成長の話題につながる。
3)2)に関連して無生物が自動的にそうしたことを行うことが可能か考えさせる。 → 生命の「凄さ」を体感できる。あまりにうまくできているから生命現象への神の関与という考えがなかなかなくならない。
4)こうした細胞の営みを調べるために細胞の研究が始まり、試行錯誤の結果、観察技術としての染色法などが開発されたことを紹介する。 → 細胞観察実習につながる。

 イ 動物の体のつくりと働き

消化・排泄

Q 食べるのを止めるとどうなるか(なぜ餓死に至るのか)? 

1)死は細胞機能の停止と関連することを理解する。

Q 消化器官とは何か? 消化器官のない動物はどうしているのか? 

1)消化器の進化の話題を通じて、消化器の機能分化を理解する。 → 各器官が存在することの有用性がわかる。

Q なぜ食べられるもの(食物)と食べられないもの(毒など)があるのか? 

1)生物の種類によって身体の構成・機能維持のために何が必要で、何が有害か異なる。消化の仕組みも異なる部分がある。
2)人間にも必要な栄養素が存在する。先史時代の農耕開始期では、カロリー不足にはならずとも栄養の偏りが起こって健康状態が悪化したという研究がある。現在、食育の重要性が叫ばれるのにも理由がある。


呼吸

Q ヒトはどのような仕組みで複雑な発声を行っているのだろうか?

1)発声は呼吸器官が改変されて進化した。
2)ヒトの多様な発声にはのどのほかに、話す際に口を動かすことからもわかるように、舌と歯列の開閉が関係している。


血液循環

Q 血液のない動物はどのように栄養をやり取りしているのか?


Q 皮膚の上から透けて見えるのはほとんど静脈。では動脈はどこにあるのか。なぜ分布が異なるのか。



感覚器官

Q 色覚の発達 


Q 指紋はなぜあるか? 



神経系

Q 神経系の進化

1)感覚受容器と作用器官の間を結ぶものとして現れ進化した。

Q 人類において脳の大型化を可能にした因子は何だろうか?

1)食事メニューに肉食が混ざる雑食になったことが、大きな脳の維持に必要なカロリーの安定供給を可能にしたとい説がある。消化効率のよい肉食のために消化器官を縮小することもでき、その分のエネルギーを脳に回すこともできただろう。
2)二足直立歩行を始めたため、大きな頭でも身体バランスが保ちやすかった。
3)霊長類の仲間で社会性が強い特徴を持っていたため、脳を発達させるメリットがあった。


運動器官

Q 自分(ヒト)の肩、肘、膝、股関節について、運動の自由度を調べてみよう。

1)関節の種類と対応させて各部位での運動の違いを理解する。ヒトと他の動物を比べ、それぞれの機能に合わせた運動器の特殊化について理解する。

Q 身体を動かした時にどこの筋が働いているか調べてみよう。それらの筋は、どこに付着しているだろうか? 

1)筋は収縮すると膨らむことを体感させる。
2)筋が基本的に関節をまたいで骨に付着していることを理解する。関節付近には大きな筋腹はなく、腱が集まっている。
3)特定の運動時には特定の筋が収縮することを体感させる。随意運動は感覚器による状況確認のもと脳が指令し、神経を通じた信号伝達によって筋が動くことを理解する。

 ウ 動物の仲間

Q 思いつく生物種を挙げて、自分なりに分類してみよう。

1)分類する前に、何を基準にすべきか決める必要があることに気づかせる。現在の分類は生息場所などでなく、基本的に身体構造に基づいて分類していることを教える。
2)形態による分類が、進化系統をおおまかに反映していることがわかってきた研究史について概説する。
3)分類体系上のヒトの位置について考えさせる。なぜヒトは霊長類と言えるのか、そもそも霊長類とはどのような動物なのかを教える。
4) 分類には恣意的側面がつきまとうこと、現在の分類学上の未解決の問題について触れる。

Q ヒトの運動・身体上の特徴はなんだろうか?

1)二足直立歩行、大きな脳、器用な手・・・・・
2)ヒトは独特だが、他の生物種もそれぞれ独特であることを理解する。

 エ 生物の変遷と進化

Q 人類はいつ、どこで進化したのだろう?

1)化石やDNAの研究から人類と最も近縁な現生種であるチンパンジー・ボノボとの系統分岐が起こったのは、600〜800万年前ごろと考えられている。ダーウィンは化石が人類の化石が見つかる前から、解剖学的に人類と近いチンパンジー・ゴリラのいるアフリカが人類の故郷だと推測していた。紆余曲折の結果、今ではダーウィンの予測が正しかったことが証明されている。
2)現生人類(つまり現代人の属する種=ホモ・サピエンス)が現れたのは、20万年前ごろで、これもアフリカであったことが、最近の研究の進展によってわかってきた。ジャワ原人や北京原人、ネアンデルタール人などは、それより前の時代にアフリカからユーラシアへ進出した人類の子孫たちだが、アフリカからやってきたホモ・サピエンスの集団に置換あるいは吸収され、事実上絶滅したと考えられている。
3)人類の進化は決して一直線の“発展”の歴史ではなかった。この過程においては、上記のジャワ原人など以外にも、絶滅して子孫を残さなかったいくつかの側枝があったことが、化石の調査からわかっている。また、ホモ・サピエンスにつながった系統でも、連続的(漸進的)に直線状の進化が起こったわけではない。


第3学年

(5) 生命の連続性

 ア 生物の成長と殖え方

ここは細胞レベルの話が中心みたいですね。あえて生活史の話を入れるか?

Q ヒトの細胞の多様性について復習。

 イ 遺伝の規則性と遺伝子


(7) 自然と人間

 ア 生物と環境

Q 人間活動が自然に大きく影響するようになったのは、人類史の中でいつごろのことだったのだろうか?

1)明らかなのは産業革命以降だが、1万年前ごろから農耕・牧畜(食料生産)が始まって以降は、耕作地等の造成のための開拓をするようになっている。
2)農耕以前の旧石器時代においては影響は限られていたと思われるが、一部地域で、人間の進出とともに大型動物が大量絶滅する現象が知られており、人間が狩り過ぎた可能性が論じられている。
3) これらの情報を通じて、人間活動のどういう側面が環境に影響しているのかを考える。

 イ 自然の恵みと災害