理科室にあるヒト骨格模型を使った授業のポイント
- 2010/08/29「教員のための博物館の日 2010」
- 国立科学博物館・人類研究部編
目的
- ヒトの骨格がいかに精巧にできているかを伝え、生物の体の構造や進化への関心につなげる
人骨を見て、自分の体のどの部分に相当するかわかる?例:肘、すね、肩、鎖骨
1)骨を見る
- 骨の数
ヒトの骨の数はいくつ?
→約200個
- 関節
→骨と同士が連結するところが関節。骨と骨の間に隙間があり、滑液などがある。骨と骨とはどうつながっている?
- 運動
→骨表面やゴツゴツしたところ(粗面・隆起・線)。骨に付着した筋肉が収縮し、関節で骨が動く。骨のどこに筋肉は付着する?
- 骨格の構造
- 基本構造(脳を守る頭蓋骨、手足の骨の上部1本、下部2本など)は多くの生物で共通 →環境や生活で形や大きさが変わる
2)骨の役割
- 支持機能
- 保護機能(脳や脊髄、肺や心臓)
- 運動機能(筋と協調して。関節面の存在。)
- カルシウムの貯蔵・放出
- 造血(骨の中の空洞にある赤色骨髄が行う。)
3)骨の性質
- 性質
骨は重い?軽い?頑丈?
→体重の約五分の一。骨質は中空構造のため、軽くて丈夫(≒ 鉄パイプ)
- モデリング
→若年期まで長い骨は骨幹部と骨端部とにわかれていて、両者の間にある骨端軟骨によって骨が伸び続ける。ある年齢になると、この軟骨が骨になり、一つの長い骨になる。身長が伸びるのはなぜ?
- リモデリング
→骨の内部には骨を壊す「破骨細胞」と骨を作る「骨芽細胞」があり、毎日古い骨から新しい骨に生まれ変わっている。全身の骨も3年程度で入れ替わっている。
- 修復
→骨は自己修復するため、変形して治らないようにする。骨に傷がつくと、骨膜から仮骨が付け足される。(骨膜例:スペアリブ)骨折したとき、なぜギプスをつける?
4)ヒトの骨格の特徴 (動物の骨を比較に利用:類人猿が望ましい)
- 頭骨
- 脳頭蓋が大きく顔面頭蓋は小さい。犬歯など歯が縮小。鼻が隆起しオトガイがある。
- 脊柱のS字状湾曲
- 重い頭を支えるスプリング。直立二足歩行獲得と大後頭孔の位置。
- 骨盤の上半分が広く下半分が狭い
- 上半分は腹部内臓を支え、おしりの筋肉が付着。下半分は、内臓落下を防ぎ、大腿骨を重心に近づける。 →直立二足歩行獲得と難産の関係
- 足のアーチ構造
- 足の骨が縦・横方向のアーチを作り、足底腱膜がそれを維持(土踏まず)→ 直立二足歩行時の衝撃吸収 ( ≒ 眼鏡橋)
- 相対的に長い脚
- ヒトの大腿骨は類人猿の大腿骨よりも長い
サルとの共通点
- 眼窩が前を向き、眼窩後壁(真猿)がある
- 立体視と視界の安定
- 関節の可動域が広い(特に上肢)
- サルの一般的特徴(木登り)
- 手の母指対向性
- 親指が他の4本の指と向き合うことで把握できる(サルは足も同じ)
5)なぜヒトの骨の研究をするか?
人骨を研究する様々な分野
- 医学
- 病気や怪我の治療に役立てる
- 法医学
- 白骨死体の年齢・性別・集団などを特定し身元を割り出す
- 自然人類学
- 遺跡から出土する人骨などを調べ、集団の歴史や祖先の生活を調べる
6)人骨研究の方法
年齢・性別の判定
- 年齢
- 歯の形成や萌出の状態、恥骨結合面の形状、歯の磨耗の程度などから総合的に判断
- 性別
- 全体的な大きさ、骨盤の形状、頭骨の眉間部や乳様突起の形状などから総合的に判断
- 様々な研究
- 骨に残る病気や怪我の研究 → 祖先たちの暮らしぶり、犯罪捜査
- 骨のかたちの多様性と変遷 → 人類進化や日本人の起源などについての研究
- 骨のかたちの特徴 → 運動機能の研究(直立二足歩行していたかなど)
- 骨から取り出したDNAの研究 → 個人の同定や帰属集団の推定
- 骨の構成成分(炭素や窒素の安定同位体など)の研究 → 食べていたものの推定
- 骨から行う年代測定 → 炭素14法など
参考文献
「知のビジュアル百科 ホネ事典」 あすなろ書房
「好きになる解剖学」 竹内修二 講談社