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高等学校指導要領パブリックコメントの変更点

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!!!高等学校指導要領パブリックコメント
+件名:「高等学校・特別支援学校学習指導要領改定案等について」
+団体名:日本人類学会教育小委員会(委員長・担当理事 高山博 慶応義塾大学教授)
+(性別、年齢)
+職業:団体
+住所:千葉県柏市柏の葉5-1-5東大・新領域・生命棟502米田穣気付
+電話番号:04-7136-3683  e-mail: myoneda@k.u-tokyo.ac.jp
+意見:

日本人類学会では近年、研究者および教育関係者を中心とした『教育小委員会』を立ち上げ、『理科離れ』などの初等中等教育における問題を議論してまいりました。その中で、教育現場で自然人類学の知見を活用すれば、理科への興味を喚起できるという見解にいたりました。すなわち、もっとも身近な生物である私たち自身『ヒト』を題材として生物を学習することが必要だと考えます。
 今回提示された高等学校学習指導要領案のうち「生物」において、生物の諸現象を理解するための説明原理となる進化について、従来よりも幅広く取り上げるように改正された点を高く評価いたします。しかし、全体としてヒトの生物学が全く取り上げられていないので、ヒトの特異性と、他の生物との連続性が理解されない危惧があります。ヒトは直立二足歩行や大きな脳といった特徴をもつが、他の生物と共通性をもつ生物の1種であると理解することは、ゲノム創薬などバイオテクノロジーが実社会で応用されつつある現在、国民が広く理解すべき科学リテラシーのひとつと考えます。例えば「生物の系統」で、生物としてのヒトの進化をしっかり学習すべきです。また、生態系に現在人が与えている大きな影響を、人類の歴史の文脈で理解することで、環境問題への深い理解が得られます。
 身近な疾病の学習についても、生物あるいは動物としてのヒトの特徴をあわせて学習することで、生物学が医療や創薬に直結する身近な学問だと理解できるでしょう。例えば、「体内環境の維持の仕組み」において、約1万年前の農耕・牧畜によってはじまった多量の脂肪やデンプンの摂取が糖尿病の背景と学習すれば、病気と生物学は深く関係あることが理解できます。すなわち、ヒトの進化を学習することによって、ヒトを生物の1種として考察する視点を獲得でき、科学的な思考力、判断力をより有効に興味をもって学習できると期待されます。
 さらに、ヒトの進化を学習することで、我々自身が進化の産物であると理解され、実感しにくい進化という現象への興味を喚起できます。また、ヒトの表現型の多様性が環境によると学習すれば、肌の色などの見た目の違いが進化の産物で、見た目による人種差別には科学的根拠がないと理解できます。生物としてのヒトの理解は、優れた科学的倫理と国際感覚の礎となるのです。
 以上の観点から、付加・修正の要望を添付いたします。ご検討いただければ幸いです。
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!!別添資料
!高等学校学習指導要領改正案に関する付加・修正の要望
日本人類学会教育小委員会
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!「科学と人間生活」に関して
*(1)科学技術の発展において、「(科学技術)の変遷と人間生活の変化との関わりをあつかう(p-48)」とあるが、火の使用や栽培植物・家畜の利用などを含めて、より広義の科学技術の変遷と人間生活の変化との関わりをあつかうべきである。そこで、「火の使用や農耕・牧畜などをふくむ科学技術の変遷と人間生活の変化」とすることが望ましい。
*(2)人間生活の中の科学、ウ 生命の科学、(ア)生物と光において、「ヒトの視覚と光のかかわり(p-47)」があるが、これはヒトを含む霊長類が色覚を獲得した進化的背景(木の実を認識することが適応的であった)ことを明記する必要がある。そこで、「ヒトの視覚の進化と光のかかわり」とすることが望ましい。
*(2)人間生活の中の科学、ウ 生命の科学、(イ)微生物とその利用において、「微生物の人間生活とのかかわりについて理解すること(p-47)」とあるが、人間が約1万年前に定住生活を開始して、家畜などの動物と身近に接触したこと、排泄物やゴミが身近にとどまったことによって、より多くの病原菌と接することになり、感染症が大きな問題になったことを学習する必要がある。「微生物の人間生活とのかかわりや、ヒトと病気の関わりの歴史について理解すること」とすることが望ましい。
*また、「微生物が医薬品などの生成に利用されることにも触れる(p-48)」とあるが、微生物の利用は発酵食品の歴史がずっと長く、生徒に身近でもある。例えば、動物乳の発酵食品であるチーズやヨーグルトは、乳糖分解酵素をもたなかった人類には大発明だったに違いない。そこで「微生物が食料品や医薬品などの生成に利用されることにも触れる」と明記することが望ましい。
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!「生物基礎」に関して
*(1)生物と遺伝子、ア 生物の特徴、(ア)生物の共通性と多様性において、「生物は多様でありながら共通性をもっていることを理解すること(p-59)」とあるが、「ヒトを含む生物は多様でありながら共通性をもっていることを理解すること」とすることが望ましい。
*(1)生物と遺伝子、ア 生物の特徴、(イ)細胞とエネルギーにおいて、「ミトコンドリアと葉緑体の起源にも触れること(p-60)」とあるが、さらにミトコンドリアの研究によって現代人の共通祖先が約20万年前のアフリカ集団にいたという「ミトコンドリア・イブ」説を紹介することによって、自らの遺伝子に対す興味を喚起することが可能である。「ミトコンドリアと葉緑体の起源にも触れ、ミトコンドリアDNAを用いた分子進化の研究にも触れること」とすることが望ましい。
*(1)生物と遺伝子、イ 遺伝子とその働き、(ア)遺伝情報とDNAにおいて、「遺伝子とゲノムとの関係に触れる(p-60)」とあるが、2000年にヒトゲノムが解読されたことは、高等学校において是非学習するべきである。そこで、「遺伝子とゲノムとの関係およびヒトゲノムの解読についても触れる」とすることが望ましい。
*(2)生物の体内環境の維持、ア 生物の体内環境、(ア)体内環境において、「血液凝固にも触れること(p-60)」とあるが、ABO式血液型による性格判断が横行している我が国の現状を鑑み、ABO式血液型の集団差(例えばアメリカ先住民ではO型が非常に多い)についても触れることが望ましい。「血液凝固とABO式血液型にも触れる」とすることが望ましい。
*(2)生物の体内環境の維持、ア 生物の体内環境、(イ)体内環境の維持の仕組みにおいて、「血糖濃度の調節機構を取り上げること。その際、身近な疾患の例にも触れること(p-60)」とあるが、例えば身近な疾患のひとつである糖尿病の場合、そのメカニズムだけではなく、進化的な原因にも触れることで、生物学は事象を暗記する学問ではなく、科学的な考え方を学習する学問であることを理解できる。そのため、「血糖濃度の調節機構を取り上げること。その際、身近な疾患の例とその進化的背景にも触れること」とするのが望ましい。
*(3)生物の多様性と生態系、ア 植生の多様性と分布、(イ)気候とバイオームにおいて、「日本のバイオームも扱うこと(p-60)」とあるが、日本のバイオームが我々日本人の祖先に与えた影響を紹介することで、ヒトも生態系の一部であることが理解される。具体的には縄文時代に、東日本と西日本で人口が全く異なっていることが、常緑広葉林帯と落葉広葉樹林帯の食料資源と関連することを紹介することが望ましい。そこで、「日本のバイオームと人間生活への影響も扱うこと」とすることが望ましい。
*(3)生物の多様性と生態系、イ 生態系とその保全、(イ)生態系のバランスと保全において、「人間の活動によって生態系が攪乱され、生物の多様性が損なわれることがあることを扱う(p-60)」とあるが、これが必ずしも近代の産業活動だけでの現象ではないことを理解する必要がある。例えば、約1万年前に北米大陸に進出した人類が多くの大型哺乳類の絶滅に関与した可能性が指摘されている。また、大航海時代にドードーなど数多くの動植物を絶滅に追いやっている。複雑な生態系のメカニズムがとても脆弱であることを理解するために、「過去そして現在の人間の活動によって生態系が攪乱され、生物の多様性が損なわれることがあることを扱う(p-60)」とすることが望ましい。
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!「生物」に関して   
*(1)生命現象と物質、エ 生命現象と物質に関する探究活動において、「生物学的に探究する能力を高めること(p-61)」とあるが、この単元でABO式血液型による性格判断が横行している我が国の現状を考察させ、ABO式血液型と性格の関係について考察することが望まれる。そのなかで、現代人におけるABO式血液型の集団差(例えばアメリカ先住民ではO型が非常に多い)についても触れることが望ましい。そこで、「ABO式血液型などを題材に生物学的に探究する能力を高めること」と明記することが望ましい。
*(1)生命現象と物質、ウ 遺伝情報の発現、(ア)遺伝情報とその発現において、「「遺伝情報の変化」については、同一種内でのゲノムの多様性にも触れる(p-63)」とあるが、とくに生物種としての「ヒト」の多様性について明記することが望ましい。ヒト集団には多様性があるが、その変化は連続的であり、皮膚や光彩の色などの表現型によって分類された「人種」の概念は無意味であると学習することが重要だ。それによって、見た目にもとづく人種差別には科学的根拠がないという重要なメッセージを学習することが可能である。そこで、「「遺伝情報の変化」については、同一種内とくにヒトでのゲノムの多様性にも触れる」とすることが望ましい。
*(1)生命現象と物質、ウ 遺伝情報の発現、(ウ)バイオテクノロジーにおいて、「遺伝子を扱った技術について、その原理と有用性を理解する(p-61)」とあるが、医療や創薬における応用を鑑み、バイオテクノロジーのヒトへの応用に関する倫理的問題について、多様な意見を学習することが重要と考える。そこで「遺伝子を扱った技術につて、その原理と有用性にあわせて、その問題点について理解する」とすることが望ましい。
*(4)生態と環境、イ 生態系、(イ)生態系と生物多様性において、「遺伝的多様性、種多様性及び生態系多様性を扱うこと(p-62)」とあるが、とくに現代人(ヒト)の遺伝的多様性を学習することは、人種差別には科学的根拠がないことや、自らの生物としての位置や進化的背景を理解するために極めて重要である。そこで、「遺伝的多様性とくにヒトにおける遺伝的多様性、種多様性及び生態系多様性を扱うこと」とすることが望ましい。
*(5)生物の進化と系統、ア 生物の進化の仕組み、(ア)生物の起源と生物の変遷において、「生物の変遷を地球環境の変化に関連付けて扱う(p-62)」とあるが、地球環境が生物に与える影響を理解する最も興味深い事例は、人類の進化である。アフリカ大陸東岸の乾燥化によって広がったサバンナ環境に適応することで、直立二足歩行が進化した「サバンナ説」は広く支持を集めている。生徒の学習意欲を喚起するために、人類の進化を取り上げることを希望する。そこで、「人類をはじめとした生物の変遷を地球環境の変化に関連付けて扱う」とすることが望ましい。
*(5)生物の進化と系統、イ 生物の系統、(ア)生物の系統において、「生物はその系統に基づいて分類できることを理解する(p-62)」とあるが、ヒトがどのような系統に属するのかは、生徒の学習意欲を喚起するのみならず、先端医療などで求められている生命倫理の基礎となる重要な知識である。また、系統は進化の道筋を反映していることを学習するのは極めて重要であり、人類進化はその事例として最も身近で適切である。そこで「ヒトを含む生物はその系統に基づいて分類でき、系統は進化の過程を反映していることを理解する」とすることが望ましい。
以上、ご検討いただければ幸いです。
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