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2011年度シンポジウム

 2011年度シンポジウム「考古学における自然人類学・考古科学研究の現状とこれから」

  • 会場:沖縄県立博物館・美術館 美術館講座室(予定)
  • 2011年11月4日 9:30-11:30
  • 入場無料・事前申込み不要

プログラム

  1. 「開催趣旨」9:30-9:35
    • 米田穣(東京大・新領域)
  2. 「沖縄における骨考古学の実践」9:35-9:55
    • 片桐千亜紀・徳嶺里江(沖縄県博)・土肥直美(琉球大)
  3. 「古人骨・考古資料からみた古墳時代の埋葬原理」9:55-10:15 
    • 清家章(高知大・人文)
  4. 「考古学・人類学的研究と成果の活用」10:15-10:35 
    • 遠部慎(徳島大・埋文)・畑山智史(石川県埋文C)
  5. 「動物考古学における硬組織成長阻害の情報性」10:35-10:55 
    • 富岡直人(岡山理大・総情)
  6. 「縄文墓制研究における人骨情報の有効性について」10:55-11:15 
    • 山田康弘(歴博・考古)
  7. 11:15-11:30 質疑応答・総合討論
  8. 11:30-12:00 分科会総会

 発表要旨

開催趣旨
米田穣

骨考古学では、骨を基本とした研究から過去の人々の生活誌に
迫ることを目指しています。その研究には発掘調査で得られた
人骨資料のみならず、「考古学者が何を必要としているのか」、
「骨考古学的情報をどのように活用できるのか」について考古
学者との真摯な議論が必要と考えます。今回の骨考古学分科会
シンポジウムでは、自然人類学や考古科学の新たな手法を取り
入れながら、独自の視点で研究を推進している考古学者にご自
身の経験と自然人類学・骨考古学への提言を頂きたいと考えて
おります。幅広い分野の方々と意見交換できれば幸いです。

沖縄における骨考古学の実践
片桐千亜紀・徳嶺里江・土肥直美

沖縄県はその地理的環境から、発掘調査によって多数の人骨が
検出される遺跡が多く存在する。また、近世・近代の古墓も発
掘調査の対象となることが多く、毎年多量の人骨が検出されて
いる。洞穴や岩陰を墓とする事例も多く見られ、先史時代から
近世・近代にかけての葬墓制は多様である。沖縄県立埋蔵文化
財センターには先史時代から近世・近代にかけて豊富な人骨が
保管されている。土肥直美を中心とする研究グループは、人骨
から得られる人類誌の解明を目指し、沖縄県立埋蔵文化財セン
ター所蔵人骨の研究を進めている。主なテーマは形質、骨や歯
の生活痕、年代、安定同位体、mtDNAとしており、データが毎年
蓄積されている。

古人骨・考古資料からみた古墳時代の埋葬原理
清家章

古墳には複数の被葬者が埋葬されることが一般的である。こ
れら被葬者間の親族関係について、古人骨・考古学的資料ある
いは文献史料から分析を行った。その結果、古墳時代を通して
キョウダイ・親子の埋葬が一般的な原則であり、婚人者の埋葬は
例外的な存在であることが明らかとなった。ただ、古墳初非者
の性別については中期と中期後実に変化が認められた。初葬者
は前期には男女ともにその存在が確認されるのであるが、中期
以降になると上位の古墳から段階的に男性に限定ざれるように
なる。こうした分析を通して、古墳時代における親族構造の変
化過程を示したい。

考古学・人類学的研究と成果の活用
遠部慎・畑山智史

考古学および人類学の分野のみならず、多くの分野で総合的な研
究が増えつつある。中でもホモサピエンス出現以降を扱う分野
では、いわゆる人為的バイアスを考慮しなくてはならないため、
抱えている課題も共通するケースが多い。そうした中、異なる方
法論から得られる結論をどのように評価しあい、実際のフィー
ルド調査に活かしていけばいいのか、議論は尽くされていない。
本発表では、異なる手法から得られた結論をどのように活かし、
評価していけばいいのか実践例をいくつか提示し、またその成
果を地域社会の中での示し方のモデルケースを示す。

動物考古学における硬組織成長障害の情報性
富岡直人

深刻な津波被害が生じた東北地方沿岸域において、アサリの成
長線に津波の影響を示す成長障害が刻まれたことが大越健嗣に
より指摘され、成長縞の持つ情事副生があらためて確認された。成
長縞と成長障害の痕跡をあわせて観察した場合、時系列で並べ
られた体内状況変化が成長痕跡として把握されるのだが、その
体内の状況変化は、生息環境に大きく影響されることが予想さ
れ、環境変化の解釈に用いられがちである。貝殻成長線分析を中
心として、硬組織成長障害の解釈の可能性を整理するとともに、
人類による採集や養殖の営為を刻み残している可能性も検討し、
動物考古学における硬組織成長障害の持つ情報性を整理する。

山田康弘
縄文墓制研究における人骨情報の有効性について

これまで、縄文時代の墓制研究は、その親族構造・婚姻形態・
性別分業・年齢階梯・精神文化など、当時の社会に対して様々な
仮説を提示してきた。これらの仮説を検証するために、あるい
はより蓋然性の高い仮説を構築するための検討材料として、出
土人情から得ることのできる様々な情報が利用されるようになっ
ている。たとえば、出土人骨の年齢とその埋葬形態や装身貝の
着装状況などといった考古学的情報を組み合わせることによっ
て、当時の人々のライフヒストリーを描き出すことが可能であ
る。今回の発表では、どのような人類学的情報が墓制研究に利
用されてきているのか事例紹介を行い、あわせて今後の展望に
ついて考えてみたい。