トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ RSS ログイン

2009年度シンポジウム

 2009年度シンポジウム「縄文生業の地域性と多様性をさぐる」

  • 日時:2009年10月3日(土)9:00〜12:00
  • 会場:Schonbach Sabo(シェーンバッハ・サボー)「立山」

第63回日本人類学会大会URL:http://www2.tmig.or.jp/jinrui63/

  • 世話人:米田穣
  • 共催:
    • 総合地球環境学研究所プロジェクトD-02「日本列島における人間-自然相互間の歴史的・文化的検討」(プロジェクトリーダー・湯本貴和)
    • 科学研究費補助金基盤研究(B)「新手法による日本人集団形成に関する研究」(研究代表者・米田穣)

開催趣旨

縄文時代は地域的な多様性を認めながらも通底する共通要素が強い文化圏であると考えられています。その分布域には、南北に長い日本列島の北海道から沖縄諸島までの、亜寒帯・温帯・亜熱帯の多様な生態系を含んでいます。そのような多様な生態系でみせた縄文生業の柔軟性は、どのような特徴から生み出されたものだったでしょうか?また、地域的な多様性は実体はどのようなものであり、それは弥生時代以降の生業にどのような影響を与えたのでしょうか?本シンポジウムでは、縄文時代の生業活動の地域性について、骨を材料とした様々な角度から再検討し、縄文時代の人びとの生態について総合的な視点を獲得することを目的とし、議論を行います。

スケジュール(発表20分 質疑5分):

  • シンポジウム趣旨:米田穣(東京大学)9:00〜9:05

  1. 物質文化からみた縄文生業の地域性:山田康弘(島根大学)9:05〜9:30
  2. 動物組成からみた縄文生業の地域性:鵜澤和宏(東亜大学)9:30〜9:55
  3. 同位体分析からみた現代日本人の食生態と地域生態系:陀安一郎(京都大学)9:55〜10:20
  4. 同位体分析からみた縄文生業の地域性:米田穣(東京大学)10:20〜10:45
  5. 縄文時代人の齲歯率の地理差から生業を考える:藤田尚(新潟県立看護大学)10:45〜11:10
  6. 総合討論 11:10〜11:30

  • 骨考古学分科会総会: 11:30〜12:00
    • 名簿の確認
    • 会計報告
    • 幹事会メンバーの承認
    • 分科会細則および管理規則の承認
    • 次回シンポジウムテーマの募集

 発表要旨


「物質文化からみた縄文生業の地域性」

山田康弘(島根大・法文・社会文化)

食物残渣である動植物遺存体という直接的な証拠の検討を除いた場合、考古学的に縄文時代の食性およびその直接的要因となる生業形態を探るためには、石器や骨角器などの遺物の組成や、貯蔵穴や植物加工場などの遺構のあり方を検討するという方法論がこれまでにも採用されてきた。このようなオーソドックスな考古学的手法によって、各地域の生業形態のあり方が、これまでにもすでに明らかにされてきている。これら先学の研究成果を踏襲しつつ、今回の発表においても石器や骨角器の組成や、貯蔵穴のあり方といった考古学的資料の分析を軸として、日本列島各地域における生業形態、およびその地域性について概観してみることにしたい。

「動物組成からみた縄文生業の地域性」

鵜澤和宏(東亜大・人間科・人間社会)

動物地理学上、日本列島は奄美諸島以南の東洋区とこれより北の旧北区にまたがった位置にある。旧北区の中でも北海道の動物相はより北方域に近縁種をもち独自性を示す一方、本州、四国、九州における動物構成は同じとされる。しかし出土動物の種構成は、本土域の遺跡においても変異が大きいことが知られている。以上のことから、縄文時代の生業は北海道と沖縄で独自の展開を示しつながら、基本的にローカルな生態系と強く結びついて営まれたとの認識が形成されてきた。本研究では入れ子構造分析を用いて出土動物相の遺跡間比較を行い、本土域における動物利用の地域性について再検討した。

「同位体分析からみた現代日本人の食生態と地域生態系」

陀安一郎(京都大・生態セ),石丸恵利子,湯本貴和(地球研)

生物の体に含まれる元素の安定同位体比は、食物の安定同位体比に影響を受けるため、生態学における食物網解析に用いられて来た。この手法は人類においても同様に使えるため、考古学や人類学の分野でも用いられている。本発表では、古人骨と現代人の食生態を比較することを目的とし、現代日本人の髪の毛における炭素・窒素安定同位体比を測定した結果について述べる。日本列島における地理的同位体分布、サンプリングと同時にとったアンケート結果、さらに南川らによる1980年代の日本人の髪の毛の同位体比と比較することにより、炭素・窒素安定同位体比からみた現代日本人の食生態の特徴が明らかになった。

「同位体分析からみた縄文生業の地域性」

米田 穣(東京大・新領域・先端生命),土肥直美,石田 肇(琉球大・医・解剖),
百々幸雄(東北大・医・解剖)

縄文時代は一般的に、狩猟採集漁撈を中心とした生業活動を持っていたと考えられており、北海道から沖縄諸島まで分布していたと考えられている。もちろん、地域生態系によって生活様式は異なっていたと考えられるが、水田稲作農耕によって本州・九州・四国の弥生文化、北海道の続縄文文化、沖縄の貝塚文化後期と区別される弥生文化相当期よりも、明らかに通底する共通点が多いと認識されている。本研究では、縄文時代から弥生時代相当期の人骨資料について、炭素・窒素同位体比を分析し、北海道、本州、沖縄について比較検討した。これらの3地域では、縄文時代には異なる食生態を有しており、異なる適応形態が稲作受容に影響した可能性がある。

「縄文時代人の齲歯率の地理差から生業を考える」

藤田 尚(新潟県立看護大・看護・人類)

縄文時代人の齲歯率には、地理的な差がある。演者が調査した結果、外洋に面した貝塚の縄文人は概して齲歯率が高く、内海や山間部、洞穴遺跡から出土した縄文人は、概して齲歯率が低い傾向にある。このような縄文人における齲歯率の違いは、時代差とともに、地理的な要因による当時の生業の差を反映していると考えられる。従って、齲歯率の差から、間接的ではあるが、当時の食生活やライフスタイルなどを、ある程度推定していくことが可能であると考える。今回の発表では、地理的な齲歯率の差が、どのようなファクターで生じたのか、そこから見えてくる縄文人の生業はどのようなものなのかを論ずると共に、縄文人の寿命や健康状態にも触れてみたい。